ぐいっと腕を引かれ、


何が起こったか分からないまま、

私は誰かに抱きしめられていた。


洗剤のにおいがふわっと、鼻をくすぐる。

「……」

少し沈黙が続き、


ゆっくり、と体を離される。


「皆川 琴羽ちゃんだよな?覚えてるかなー」

パッと顔をあげると、


「あっ!」

この前、人間違えをされた男の人だった。


「やっと見つけた…」

男の人は、すごくかっこよくて。

パッチリとした目、

ふわふわの、淡い色の髪。

すらっとしててモデルさんみたいな。

スポーツマンの大樹とは違って、


大人、ってかんじのひとだった。


「あ、紹介遅れました。2年の高山 陽です。」

高山 陽 (たかやま よう)先輩…。


「琴羽ちゃんさ、なんでいっつも泣いてんの?」

高山先輩は、いきなりどストレートな質問をしてきた。


「え、」

「あはは、ごめん!冗談!言いたくなかったら言わなくていーよ。」

高山先輩は、ニコッと笑った。


不覚にもかっこいい、って思った。


「あ、そーだ。お昼一緒に食べない?弁当忘れたーと思って購買行ったらさ、お弁当あって、俺一人じゃ食べんない。」

ええ!?!

急なお願いに、きょどっていると、

先輩はそのまま私の腕をひっぱった。


男っぽい手、

風でふわふわとそよぐ髪。

洗剤の、香り───。


大人の人って何だか魅力があるんだなあ、


そんなことを思いながら私は高山先輩の後ろをついていった。