「何のために私を拐ったの?」

「それは心当たりがあるだろう」

私が誘拐される理由?
心当たりと言われても何もない。

私はお金持ちでもないし、人から恨まれるような極悪非道なことはしてこなかったはずだ。
だったら何故…

「あ…」

まさかとは思うが、一つだけしか思い浮かばなかった。

「堂園…一茂…?」

私がそう言うと、彼は不敵な笑みを浮かべる。

「本当、だったのね。私が堂園の…」

母の口座に堂園からお金が振り込まれているのは事実のようだが、私が堂園の実の子供であることを裏付けるような証拠はなく正直半信半疑だったが、まさか本当だったとは。

驚きのあまり私は言葉が出ない。

「16年間この国のトップに君臨し続け、大きなスキャンダルもなかった堂園の大きな弱点…それが君だ、並木和紗。君は堂園のトップシークレット。あいつをトップの座から引きずり下ろすには十分のスキャンダルだ」

彼はそう言って笑う。


「つまり堂園を辞職させるために私を誘拐したと?」

「そうだ。堂園が辞職さえしてくれれば君を傷つけるつもりはない」

「堂園が辞職をのまなければ?」

歴史上最長の総理大臣として名を刻んだ堂園。
16年もトップに君臨し続けた堂園がそんなに簡単に辞職をするはずがない、と私は思う。