「和紗」

後ろから声をかけられ振り向く。

「うん?」

お母さんは私の前に立ち、今にも泣きそうな表情をして口を開く。

「いままでごめんね」

ここ数日、お母さんは毎日この言葉を口にする。

「もういいって何度も言ったでしょう」

「でも…謝っても謝りきれないわ」

目にたまった涙を拭うも、溢れてきて頬を伝う。
そんなお母さんに私は笑って答える。

「もう謝らなくていい。私はお母さんの笑顔が見たいわ。これからは、二人で幸せになろう。誰にも縛られない、私たちの人生を生きよう」

「和紗…」

お母さんは私を抱き締めて、涙を流す。

もう大丈夫。
私たちは前を向いて歩いていける。

「和紗は強いのね。私の気づかないうちに、もう…こんなにも大人になっていたのね」

窓から日差しが差しこみ、風がカーテンを揺らす。

「私を強くしてくれたのは、あの人だよ」

私は窓越しに空を見上げる。
今日は雲ひとつない良い天気だ。

「お母さん、私ちょっと行ってくるね」

そう言ってお母さんを置いて、笑顔で家をでた。