もうとっくに捨てられたんだよ、母さん。

さすがの俺も気づいてはいたが、そんな残酷なことは言えなかった。
母も心のどこかではわかっていたんだと思う。
でも堂園を信じたい思いが強くて、気づかないふりをしていたんだろう。

そして俺が14歳になって、学校から帰宅してリビングに足を踏み入れると、母は死んでいた。
首吊り自殺だった。

捨てられた事実を受け入れられず、母は命を絶った。
俺はその場に崩れ落ちた。

なんであんな男のために母さんが死ななければならないんだ?
俺は自問自答した。

どれくらい経ったあとだろうか。
立ち上がって俺は家を出た。
ふらふらした足取りで向かったのは、首相官邸だった。

『俺は黒田実可子の息子だ』

そう名乗ると黒田の息子が来たと堂園に話を通し、ダメもとだったが意外にもあっさりと俺を入れてくれた。

俺はある部屋に通された。
部屋の真ん中に会議用の大きな机が置かれた一番奥の椅子に堂園は座っていた。