それから母は一人で俺を生み、一人で育て始めた。
小さいときから母は言っていた。

『今はお母さんだけだけど、いつか必ずお父さんがむかえにきてくれるからね』

ふと母のほうを見ると、母はいつも指輪を愛おしそうに眺めていた。
俺を見つめるよりも指輪を見つめているときのほうが幸せそうで、俺は小さいながら堂園に嫉妬していた。

堂園は俺が9歳のときに総理大臣になった。
それからはニュース番組で毎日、堂園の姿が映った。

『この人がお父さんよ』

母はいつも画面に映る堂園を指をさしてそう言った。
俺は画面に映る堂園の笑顔に、憎らしさを感じていた。

はじめは画面に映る堂園を嬉しそうに見つめていた母も、年を重ねるごとに焦りを感じ始めていた。

『あの人はいつ迎えにきてくれるのかしら』

そう呟いては画面に映る堂園を一日中見つめる。

だんだんとご飯も食べれなくなるほど衰弱し、堂園からもらったという指輪も、痩せたせいですぐに転げ落ちてしまう。
床に転がった指輪を拾っては、握りしめて涙を流していた。