「俺が人質を心配するわけないだろ。寝言は寝て言え」

「ごめんなさい」

黒田はテレビを見ながら珈琲に口をつける。

近づいたと思えば突き放して、冷たくあしらわれたと思えばこうやって心配してくれる。
黒田は何を考えているかわからないけれど、ちょっと不器用なだけで優しい人だ。

「…でも、大丈夫よ。ありがとう」

私はそう言って笑う。

「珈琲飲みたくなっちゃった!もらっていい?」

「ああ」

同じ珈琲なのに、私の作ったものよりも黒田の作ったものの方が美味しく感じる。
私は珈琲を作り始めたのはこの生活が始まってからなのだから、当たり前だけれど。

コツでもあるのかな?

「ねえ、黒…」

私が後ろにいる黒田のほうを振り向いた瞬間のことだった。