「…お前さ、わかっているのか？」

「え？」

私の右腕を黒田が強く掴んで引っ張る。
私の掴んでいたマグカップは落下し、珈琲がテーブルの上を濡らす。

「俺はお前を誘拐したんだぞ？お前を殺すかもしれない。それをわかっているのか？」

黒田の私を睨む鋭い目つき。
その気迫に圧倒されそうになる。

「あなたは私を殺さない」

黒田の目を真っ直ぐ見つめて言う。
零れた珈琲が私のジャージのズボンを濡らす。

「何でそう言えるんだ」

「私が逃げ出したりしなければ、私に危害は加えないって言ってたじゃない」

「そんなの嘘かもしれないだろ」

「あなたはそんなことしない」

4日間、一緒にいてわかった。
この人はそんな人じゃないって。

だから…いくら堂園一茂が憎くても、この人に人を殺してほしくない。
死んでほしくない。
いなくなってほしくない…

だから、私もこの人のためにできることをしたい。
たとえそれが、この国の法律に背くことだって。

「私にはわかるの。だから…だから私にも…っ」