誘拐されて初日、私は部屋を与えられた。

『この部屋を使え』

黒田はぶっきらぼうにそう言った。

部屋には布団が敷かれたベッド、箪笥のみ。
箪笥の中にはグレーの上下ジャージが2セット、下着が2枚、そしてバスタオルが2枚。
それ以外は部屋に何もなかった。

誘拐されてベッドと着替えが用意されてるって、そんなことある?
そう思ったのを覚えている。



お風呂でシャワーを浴びながら考える。

私と黒田は同じなのかもしれない。
堂園一茂を恨んでいるという点で、私たちは同志だ。

そばにいる私より、テレビの中にいる堂園を見つめる母。
私だって、堂園を殺してやりたいと考えたこともあった。

堂園さえ死ねば、お母さんは私を見てくれるのではないか。
そんなことが頭を支配した。

黒田も過去に堂園と何かあり、恨んでいるに違いない。

行動に移さなかった私と、行動に移した黒田。
私は黒田を羨ましくもある。

だから私は黒田を嫌いになれないんだろうか。