「どうした」

後ろから黒田の声が聞こえ、心臓が跳ねあがる。
いつ2階から降りてきたのだろう。
全く気づかなかった。

「えっ…あ…」

床に座り込んでいる私を、黒田は不思議そうに見つめている。

「体調でも悪いのか?」

会話を盗み聞きしたことを気づかれていないようだ。
知られたらまずい。
誤魔化さなきゃ。

「い…いや、ちょっと躓いて転けちゃって。大丈夫だから!」

「…そうか」

よかった。
うまく誤魔化せたようだ。

「そ、それよりお昼たべるよね?私、味噌ラーメンもらっちゃったけど」

「ああ。俺は醤油にするから構わない」

黒田はいつも通りの対応だ。

ラーメンをつくる黒田の後ろ姿を見つめながらこの感情の理由を探していた。
けれど私はまだわからないまま、もやもやした気持ちで席についた。