「…ああ。こっちは問題ない。おとなしくしている」

おとなしくしているって、私のこと?
一体誰と話しているの?
もしかして黒田に協力者がいるの?

「そろそろ向こうも動き出すはずだ。…ああ、心配しなくていい。俺はもう、とっくに覚悟はできている」

私はドアの前に立ち止まり、息を殺して唾を飲み込む。
そして黒田の声に耳をすました。

「命をかけてでも俺はあいつを殺す。何度も言っているだろう。この拳銃で…な」

私の心臓の鼓動は激しさを増す。
驚きで声が漏れてしまいそうになるのを必死におさえる。

「あなたは気に負わず、心配はしなくていい。これは俺が望んだことだ」

黒田は本気だ。
本気で堂園を殺す気だ。
自分の命にかえてでも。

私は逃げるように階段をおり、リビングへ走って床に崩れ落ちる。

どうしよう。
どうしようどうしよう。
黒田が人殺しになってしまう。

さっきの会話を聞いたことで一気に現実味を増す。

私を誘拐した張本人なのに。
なんでこんな苦しくて、心がもやもやするの?
もしかしたら黒田が死んでしまうかもしれない。
そう考えて、何で悲しい気持ちになっているの?

どうして…