「並木琴子は洗脳されている可能性がある」

「…え?」

彼が突拍子もなくそう言う。
せん…のう?

「どういうこと!?」

勢いよく立ちあがると、椅子は床に大きな音を立てて倒れる。
この人は何かを知っているの?

「あそこまで堂園に執着するなんておかしいだろ。洗脳と考えたら納得がいく」

お母さんは堂園に洗脳されて心を操られている。
そう聞いて私は戸惑いと驚きと共に、どこかほっとする気持ちがあった。

お母さんは堂園だけいれば私のことはどうでもいい…そう思っていた。
でも堂園が自分に執着するように洗脳したのだとしたら。
お母さんは悪くないじゃないか。

「洗脳って…堂園が?」

「堂園は女癖が悪い。女を夢中にさせてその気にさせるなんて簡単なんだよ。洗脳と同じようなもんだ」

広い部屋の中に流れるテレビの音。
知らない男と二人で食べる昼食。

まだ慣れないし、これからどうなるのか不安だ。
でも彼は…黒田は私を殺したりはしない。
そんな気がしていた。