そういえばあのとき実里の家に行く途中だったんだ。
実里、心配していないかな。

今日は平日で学校もあるはずだから、休んでいる私に友達から連絡が来ているのではないか?

みんなどうしているのだろう。
お母さんは私が帰ってこなくて焦っていないだろうか。

…いや、心配なんてしていないか。
お母さんは、堂園さえいればいいんだもの。
悲しむとすれば、唯一の繋がりである私が手元にいないということだけだ。


ニュース番組に堂園が映らない日はない。
堂園をもてはやすような内容に嫌気がさす。

テレビに映る堂園を見つめて、私は左手をぐっと握りしめる。
この人さえ居なければ…

「…君は、堂園が憎いか?」

黒田の言葉にはっとする。
私がテレビに映る堂園を睨んでいたことに気づかれたようだ。

「憎くないと言えば嘘になる」

私は正直に答える。

「堂園が母の人生を狂わせたのよ」

「君の母…並木琴子の堂園への執着心は普通じゃない」

彼は少し間をおいてそう言った。

「…調べたの?」

「君のこと、君の母親のことは堂園に関わる重要な情報だからな」

彼は珈琲を飲み干して、テーブルに置く。