気がつくと唯一動かせる脚を使い、男の鳩尾めがけて蹴り上げた。保健室の片隅にドス、と鈍い音が響く。どうだ参ったか。

 内心うきうきしながら苦痛に歪んでいるであろう男の顔を覗き込むと、いたって平然としていた。その瞬間ぱちりと目が合い、あたしは目を見開く。……えっ。なんで平気なの。もしかしてこいつサイボーグ? 人造人間?



 ……彼は憎たらしい表情こそ消えていたが、眉間に深い皺をつくり、不機嫌な顔をしていた。これは昨日見た顔だ。



「……なにすんだ」



 そう言うと同時にべしんと乾いた音がした。……頭を叩かれた。地味に痛い。



「~~……っ」



 叩かれたところをさすろうにも身動きが出来ないし、なんでこうなってるのか意味がわからないし。あたしはどうしたらいいの……??

 弱気になるあたしを追い込むように、彼は声を顰めながらこう続ける。



「またやったら噛むからな」



「ッ?!?!」



 噛む?!?! どこを?!?! いややっぱり知りたくないし噛むな!!



 ……不意に、廊下のほうからパタパタとスリッパの音が響いてきた。それはだんだん大きくなると、保健室の前でぴたりと止む。……もしかして双葉ちゃん? なんで入ってこないんだろう。

 目だけを動かして扉の方を見る。すりガラス越しに、誰かが部屋の中を覗いていた。