あたしは気持ちを入れ替えるようにふうと息を吐くと、ソファから起き上がり、足元に置いていた鞄に手を伸ばす。中から筆箱とノートを取り出し、目の前のテーブルに広げた。

 ノートの表紙は星空を背景に月が描かれたもの。高校生が使うノートにしてはいささか子供っぽいかもしれないけど、これがあたしのお気に入り。

 ノートを新しいページまでめくり、シャーペンをとる。頭に浮かんだ言葉を整理しながら書き込んでいく。ときどき鼻歌をこぼしながら。



「…………」



 かりかりかりかり。……かりかりかりかり。



「……玲那、もうお昼すぎよ。いいかげんごはん食べなさい」



「あーー、うん……もう少しで出来上がりそうだから……」



 かりかりかりかり。気に入らない部分は線を引いて消す。気が付くとページ数は十ページを超えていて、手が痺れてるけど我慢。



「あっ、コーヒー切れてる……ファイルも無いし…………ねえ玲那、ちょっと職員室行ってくるけど、ちゃんと休憩しなさいよ」



「ん、はーーい」



 曖昧に返事をしたあと、双葉ちゃんは保健室をあとにした。



 ……あたしがこの学校に通ってて嬉しいのは、保健室に出入りする生徒が少ないこと。サボりに来る生徒はたまにいるけど、怪我や体調不良の生徒ですらめったに来ない。

 普段保健室で一日を過ごすあたしからすれば、もう自分の部屋と言ってもいいんじゃないかと思う。……なんて。