女の目には涙が浮かんでいたが、泣き場所を探していたわけではない。だれかに話を聞いてほしかったのかもしれない。

「やめてくれよ。部屋を荒らすのは」

女が部屋を出ようとした瞬間、どこからか男の声が聞こえた。

女は部屋のどこからか聞こえた男の声のせいで部屋から出ることを辞め、声のありかを探すため部屋の中を見渡した。

しかし、部屋のどこを見渡しても声のありかは見つからない。

何年も人の出入りがない部屋なのだから、いつの間にはこの部屋に霊が住み着いてしまったのかもしれない。

「おい、女。」

さっき聞こえてきた男の声と同じ声が聞こえ女は背中をピンと伸ばし、身を構えながら古びた鏡を見つめる。

古すぎて、もう自分の姿すら確認できないような鏡なのにそこには男の姿がはっきりと映っていた。

「え…。ワタシ、男になってしまったの?」

男の登場に驚いた女の瞳にはもう涙は流れていなかった。

驚く女とは反対に鏡に映る男は不気味な笑みを浮かべている。

どうやら鏡に映しだされているのは女の姿ではないらしい。