"暇だから。
仕方なく来たの。"

何度もそんな言い訳を心の中で繰り返しながら、
約束の居酒屋へと向かっていた。



「どうすんのよ、
スクープなんてされたら」



あいつの辛そうな顔が浮かぶ。

今が大切な時期だっていうのに、
そこでスキャンダルなんて…





「やっぱ、ダメだ」



踵を返して足を踏み出す。



「あ〜、おいおい!」

そんな声と同時に掴まれた腕。



「どうしたの?どこ行くの??
来てくれたんでしょ??」



「うん…でも、何かあるといけないから」


そう言うと、
ちょっと目を見開いて、微笑む。


「なんだ。心配してくれてんの?」


「あんたはそういう職業じゃない」


「ありがとう。
でも、大丈夫だよ?
ちゃんと考慮した上でココだから」


腕を握っていた彼の手が
私の手を包んで
裏道の方へと引かれる。


「どこ行くの?」


「逆に来てもらえないと困るんだよね〜
もう、お金払ってるからさ」



「普通だったら有名人しか入れないんだよ?」



「そういうこと…」


ガラッと空いた扉の中には、
落ち着いた雰囲気の個室があった。


「山田くんでも伊野ちゃんでもないのに、
生意気ね」

やっぱり、彼も
ちゃんとした有名人だと実感する。


「うっせ。俺は一応、月9俳優じゃい!」

「あ〜あれね。
意外と似合ってたじゃない、スクラブ。
映画、楽しみにしてるから」


「あ、りがと」


急に、そんなふうに、
目をそらして顔を赤らめるもんだから。


こっちまで、顔に熱が集まる。


「いらっしゃいませ〜
料理の方を運ばせていただきます。」


タイミング良く、
店員さんが空気を破った。



「なにか追加を頼まれるときは、
気軽に呼んでださいね〜
それではごゆっくり!」



たくさんの料理が机を埋めている。


「とりあえず、ビールだろ!」

「あぁ、私つぐよ」

ビール瓶へと手を伸ばす彼より先に
瓶をとって、コップに注ぐ。


「んじゃ、つぎあお?」


「はっ?」

「はい、こうた〜い!」

無理やり瓶を私の手から奪い取ると、
顎でコップを指す。

「相変わらず、
めんどくさいことするね」

「そっ?
…このぐらいでいい??」

お酒が弱い私には、
とても飲みきれる量じゃないけど、
まぁいいや。

「うん、ありがと」

「よし。かんぱ〜い!」

ご機嫌な彼とグラスを合わせた。