渋谷の大きな広告には、
元々の童顔を存分に生かして愛嬌を振りまく、
自然消滅した初めての彼氏(だったのか…?)


1つ年上の彼が私は大好きで、
彼も私を好きだと言った。



天宮城 夏桜(うぶしろ なお)
25歳。


テレビではよく見かける彼だけど、
彼とは10年前のあの夜以来会っていない。


「ハァ…」

この寒さで倒れたらしい。

叔父のお見舞いに行く私の足取りは、
重かった。




「まぁまぁ、夏桜ちゃん、久しぶり!
わざわざ来てくれてありがとうね?」


相変わらず、
羨ましいぐらいの童顔で
愛くるしい笑顔を作る、叔母。


「いえ。ご無沙汰しております
これ、ささやかなものですが…」

「わざわざ、ありがとうね〜
でも、俺は元気だよ?
ほら、この通り!」

「良かったです!安心しました。」


「本当に、夏桜ちゃんには、
うちの嫁にきて欲しかったなぁ〜」


「こら、お父さん!」


それは、叔父の昔からの口癖だ。

小さいころから
叔父には可愛がってもらっていた。


「えーと、、お水、買ってきますね?」


昨年、私は大学の同級生と結婚したのだ。

なんとなく気まずい空気から脱しようと、
扉に足を進める。


ガラッ


「父ちゃん、遅くなってごめん!!」

「あっ、、」


大きなマスクを取りながら、
バタバタ入ってきた彼。


「あっ、れ…、夏桜?」



最悪の事態だ。



「久、しぶり…」


「来たよ来たよ!
夏桜ちゃんを仕留められなくて
悔しくて結婚式にも来なかった、バカ息子が」

「ちげーよ!!
あん時は、映画の撮影中で。
今日だって、なんとか時間作って来たんだから!」


彼こそが、
10年間会っていなかった、従兄弟。
人気アイドルグループの有岡大貴。


「…それじゃあ、水買ってきます」


そう言って、逃げるように病室を出た。




彼とは高1の夏に、そういう関係になった。

思春期真っ只中の私達は、
今思うと、とても若かった。


親には"友達と"と嘘をついて、
2人で遊園地やらショッピングやら…

そして、あの夜には、
2人でバーベキューして、テントを張って。

初めて愛し合った。



「待って、夏桜。俺も行く」

「はっ?こんなとこ、誰かに
見られてたらどうすんのよ」

「大丈夫だって〜
それより、この後空いてる?
色々、話したくて」

「私にはないし。話すことなんて何も」

「俺にはあるの!
お前、ぜんっぜん変わってないな〜
よくそれで結婚できたもんだ笑」


結婚なんて、
好きな人とするもんじゃないと思った。

だから、いつも私に尽くしてくれて
理解してくれる夫と結婚したんだ。



「うるさい。ほんっとうざい。」



乱暴にお金を入れて、
自販機のボタンを押す。




「ぶっちゃけ、好きじゃなかったりして…」



ガコンッ


一瞬、動きが止まる。



「そ、そんなわけないでしょ?
大体どこの世界に、好きでもない男と
結婚する女がいるってのよ??」


彼に表情を読み取られないように、
病室に戻るルートを歩き出す。




「夏桜なら有り得るなって」



「えっ…?」

「だって、昔からそうだったもん」


回り込んだ彼と目が合う。



「夏桜は賢い。」




昔からそうだった。

唯一彼は、
私の計算を狂わせる。




「そっ?
でも、今回は単純。
好きだから。愛してるから。
結婚した。それだけ」


彼の横を通り抜けて再び歩き出す。


よくこうもスラスラと
嘘がつけるようになったもんだ…

いや、嘘だから言えること。
なのかもしれない


「まぁ、いいけど別に。
それより"10年前"」


そのワードに反射的に足を止めた。


「俺のこと好きだったんなら
6時に、ここ来て」


渡されたのは、
大手居酒屋チェーンの名刺。



「謝りたい。待ってるから。」



「時効すぎてるでしょ。今更…」

「あ〜!
早く戻んないとうちの父ちゃん
変な期待しちゃうよ??」


ニヤッと笑って病室に入る彼に
苛立ちながら後に続いた。