抱き締められていたのは、ほんの数秒。


だけど、時間が止まったみたいに感じた。



彼の身体が私から離れていく。


あ、ごめんつい……と彼は言った。

抱き締めたのは無意識だったのかもしれない。
深い意味はなかったのかもしれない。


それでも私は嬉しかったし、安心出来たし、でも……ドキドキもしてしまった。



自分から抱き締めておきながら耳まで真っ赤に染まっている近田君を見ていたら、何かちょっと可愛いな、なんて思ってしまって。

気付いたら涙は引っ込んでいた。



「……教室、戻ろうか」

私がそう言うと、近田君も「ああ」と頷き、二人同時に立ち上がった。今から戻れば、ちょうどホームルームが終わる頃だろう。


「そう言えばさ」

歩きながら近田君が何かを思い出した様に口を開く。


「まだ少し先の話になるけど、夏休みに入ったら花火大会、あるよな」


花火大会。毎年地元で行われている、割と大規模なお祭りのことだ。


「あれ、いつものメンバーで行こうぜって基紀が言ってた」

「えっ、本当? うわぁ楽しみ!」


花火大会は、一緒に行く人がいなくて、いつも会場まで行くことはなく、遠くから花火だけ鑑賞することが多かった。

今年は皆と行けるんだ。楽しみだなぁ。


「……でさ、良かったらその花火大会の前に……」

「え?」

「……いや」

近田君は何かを言いかけて、口をつぐむ。



「何でもない。それより、花火大会の前に期末テストだな! 期末は勝つからな!」

「あは。私も頑張るよーっ」

そんな会話をしながら、どこかスッキリとした気分で、私は彼と一緒に教室へ戻った。予想通り、ちょうどホームルームが終わったところだった。