「じゃあ、金髪のことは今度から〝はるはる〟って呼ぶねー!」

「は、はるはる?」

はるはるというあだ名をつけられるのは初めてで思わずぽかんとしていると、隣から基紀君が「こいつ、たまに人に変なあだ名つけるんだよなー」と言ってくる。
そう言えば近田君も〝チカオ〟なんて呼ばれてたっけ。

確かに、はるはるなんて言いにくそうだしちょっと変なあだ名。

でも、嬉しい。


「じゃあ私も伊川さんのこと、〝杏ちゃん〟って呼ぶね」

ちょっとだけドキドキしながらそう言うと、伊川さんーーいや、杏ちゃんは笑顔で

「おっけーい」

と答え、両手を頭上で◯の形にくっつけた。



その後も、杏ちゃんや班の皆と会話しながら下山を続けていると、気付いたら麓に到着していた。

時間的には予定通りなのだけど、私の体感的には「もう着いたの?」って位にあっという間だった。


今朝、学校から乗ってきたバス達が、再びそこに止まっていて、私達を待っていた。

麓に着いた人達から、順番にうちのクラスのバスに乗り込む。

そうすると、自然と一緒に下山してきた人達同士で隣の席になったりする。

だけど杏ちゃんは基紀君と仲良く隣同士に座ってしまったから、私は今朝と同じ様にどこか空いてる補助席に一人で座ればいいかな、とか思っていたら。


「竹入、ここ座ろうぜ」

と、杏ちゃんと基紀君の後ろのシートに腰掛けながら、近田君が私にそう言った。


「へっ」

「何。早く座れよ。後ろ詰まってるぞ」

「は、はいっ」

狭いバスの通路で進行を邪魔していた迷惑な自分に気付き、私は慌てて近田君の隣に座った。

で、でもいいのかな。近田君は堀君と座りたいんじゃないのかな?

と思ったけど堀君は、杏ちゃんたちの通路を挟んだ向かいの席で、松岡さんと楽しそうに話していた。なるほど、あれは邪魔しちゃいけない。


でも緊張しちゃう! こんな、肩と肩が触れ合ってもおかしくない近さの距離に近田君がいるなんて!

何を話せばいい⁉︎
私、汗臭くない⁉︎
心臓の音が聞こえたらどうしよう⁉︎


……なんて思っていたんだけど。


バスが出発して十分もすれば、担任も含むクラスの皆が睡魔に襲われた。