切ない春も、君となら。

「え? 近田君?」

すると、私と堀君の少し前を歩いていた近田君がこっちに振り返り。


「おい堀。余計なことは言うな」


と言うけれど……。


何だか照れた様な表情でそう言うから。
気になる。彼が私のいないところで、私のことをどう話したのか。



「竹入さんは、真面目で大人しい良い子だ、って」

「へ⁉︎」

「だから置いていくなんて駄目だ、って」


あっさり教えてくれる堀君に、近田君が「やめろ本当に!」と怒る。


「真面目で大人しくて良い子で可愛い子って言ってたっけ?」

「可愛いは言ってねえ!」


可愛い〝は〟ってことは、それ以外は全部言ってくれたってことだよね?


それに……顔を背けられてしまったけど、ここからでも分かる。彼が耳まで真っ赤になっていることが。


彼が照れていたこと、この間もあったっけ。

照れ屋なくせに。

それでも、いつも私に気を遣ってくれる。

変な期待をしている訳じゃない。
彼が優しい人だから、ってことはちゃんと分かってる。


でも。



今はただ、彼が〝基本は班行動だから〟私の所へ戻ってきてくれたのではなく、〝私だから〟戻ってきてくれたという事実が、物凄く嬉しかった。



そう言えば二人共、今度は私のペースに合わせて歩いてくれている。

申し訳ないとは思う。
でも嬉しい。


するとどこかからか、


「おい杏! そろそろ行かなきゃ昼飯の時間が少なくなるぞ!」

「え〜了解ー」

という、凄く聞き覚えのある声が聞こえてきて。


ガサッという音がしたのと同時に、コース外の草木の中から、基紀くんと伊川さんが出てきた。