切ない春も、君となら。

そして、私と近田君と堀君の三人で山を登り始める。

家族連れの山登りの定番とも言えるこの山。
大した斜面じゃないし、登りやすいとは思う。

でも、私は普段から足が遅いし、体力もない。
更には一緒に登っているのはバスケ部のスポーツマン達だ。
同じペースでついていける訳がない。


息を切らして、思わず立ち止まる。

それに気が付いた近田君が少し先で足を止めて振り向き、「大丈夫か? 悪い、ちょっとペース落とすから」と声を掛けてくれるけれど。


「だ、大丈夫! 先に行って!」


これ以上気を遣わせる訳にはいかない!

山登りは一人でも出来るし……。


「何言ってんだ。一緒に行くぞ」

と近田君は言ってくれるけど。


「近田。本人もああ言ってるし、俺達は二人で先に行こう」

堀君が近田君の腕を引っ張ってそう言う。


堀君はやっぱり、私のことが嫌いなんだと思う。

こうして一緒に登っていても、私とは話そうとしないし、目も合わさない。

スポーツマンの彼は、私みたいな外見不良な人間とは一緒にいたくないんだろう。


でも、今はその態度がありがたい。どうか近田君を連れて先に行ってほしい。


近田君はしばらく抵抗していたけど、やがて堀君に引っ張られる様にして行ってしまう。


良かった。


一人になった私は、少し乱れ気味だった呼吸を整えてから、右足を一歩踏み出す。

すると。


ズキン。


「痛っ!」

思わず顔を歪める。


く、靴擦れ?
いや、この痛みは……


「やっぱり、捻ったかな……」


実はさっき、バランスを崩して転びそうになったんだよね。

その時に、右足を軽く捻ったみたいだ。