「春ちゃん。大丈夫?」
「鞄持ってきたよ!」
保健室のカーテンが開き、そこから控え目に顔を出した菜々ちゃんと杏ちゃんが、ベッドに横たわる私に声を掛けてくれた。
ありがとう、と答えながら上半身を起こし、通学用鞄を受け取る。
あの後、泣きやまない私を、二人が保健室まで連れてきてくれた。
「でも良かったよね、保健の先生、こんな時間まで休ませてくれて」
本当、菜々ちゃんの言う通りだと思う。
私は、早退して家に帰ってたらお母さんに何を言われるか分からない。
かと言って授業に出る気分じゃなかった。
だから結局、放課後までここに居させてもらった。
中学時代、莉菜達に連れられて授業をサボったことはあったけれど、自分の都合でサボったのは生まれて初めてだなあ……なんて思っていると。
「……話していい?」
きょろっと辺りを見渡して、保健の先生や他の生徒がいないことを確認してから、菜々ちゃんが口を開く。
こく、と頷くと、二人はベッドサイドにあった丸椅子に腰をおろした。
……そして、菜々ちゃんがゆっくりと口を開く。
「……私、近田君がこんないい加減な人だなんて思わなかったよ」
その声には、彼女にしては珍しく怒気を含んでいるような気がした。
だけど。
「……違うよ。いい加減なんかじゃない。寧ろ真面目な人だからこそ、中途半端な恋人関係にはなりたくなかったんだと思う」
彼が心の支えになってくれている限り、たとえ会えなくても中途半端な関係だなんて私は思わないけど……彼には彼なりに思うことがあるのだろう。
すると菜々ちゃんは。
「ううん、いい加減よ」
「菜々ちゃん?」
「どんな理由があったって、こんなに春ちゃんを泣かせて、顔も合わせずにいなくなっちゃうなんて、いい加減よ……」
怒っていたはずの声色は、次第に弱々しくなっていく。


