風の歌

「ただいま〜」

玄関に入ると、小さなピンク色の靴が新しく置かれてあった。

ピンクってことは新しく来たのは女の子なのかな?


急いで靴を脱ぎ部屋の扉を開けた。

「海里ちゃん、お帰りなさい」


陸のお母さんがにこやかに笑う。


「その子が新しく来た子ですか?」

「ええ。ほら、海里お姉ちゃんだよ。挨拶は?」


女の子は恥ずかしいのかもじもじしていたが


「千草、4歳です!」

と笑顔で海里に挨拶した。

「おばさん、千草ちゃんの名字は…?」

「あ、それは……」
「千草みょーじないの」

「え?」

「千草ね、お母さんもお父さんもいないの。だからみょーじないの」

「……」

何と言えばいいのかわからない海里。

「…千草ちゃん、向こうで他の子達と遊んでらっしゃい」


「は〜い!」


おばさんは千草が部屋から出て行くのを確かめてから海里に千草のことを話始めた。

「千草ちゃんね、生まれた時からお父さんもお母さんもいなかったんですって」

「それは…亡くなったってことですか?」


「…いいえ」

「じゃあ何なんですか…」


「…千草ちゃんがそう言っていたの。「千草には生まれた時からお父さんもお母さんもいない」って…」

「生まれた時から?」

それっておかしくない?だって人が生まれるにはせめてお母さんがいないと‥

腕を組む海里。


「でもこれからは私達があの子の家族なんだから、寂しい思い何てさせないわ。本当のお母さんに代わってしっかり育てなきゃね!」

意気込むおばさん。

「母さん、部屋の準備できたぜ」

陸と陸の父親がダンボールを抱えて2階から降りて来た。


「ご苦労様」


「もしこれ以上子供が増えるとしたら部屋を増築しないとならんな…」

おじさんは溜め息をついた。

「そうですね。なんとかならないものかしら…」

おばさんも短い溜め息をついた。


「…」

私が出ていけば、きっと部屋の問題は解決するんだろうな…

でも、もし出て行ったとしても行くあてなんかないし…
外で遊んでいる子供達を見つめる。