「……ご主人さまってなに?」



「ん? なるちゃんは俺の飼い主だろ?」



「なった覚えなんてないんだけど。

っていうか仮にそうだったとしても、主人をパシらせるなんて悪質じゃない?」



「ごめんって……

あの子あきらめないって面倒だったから、追い払うのになるちゃん来て欲しかったんだもん」



"だもん"って。

そんな可愛く拗ねられたら、怒るに怒れない。ただ「来て」とだけ言っても、確実に動かないわたしを見越してのパシりだったんだろう。



「なるみ。……怒ってる?」



不安そうな顔を向けられて、きゅんとする。

っ、いや、ときめいてる場合じゃないからわたし……!しっかりして……!




「……怒ってないわよ」



小さく返して、自分用にと買ってきたコーヒーを飲むためにプルタブを引く。

わたしの返事を見越していたらしい衣沙はそれ以上何も言わなかったけれど、どことなく怪訝な顔つきで。



何が言いたいのかは、聞くまでもなかった。

……だって衣沙、コーヒーのブラック飲めないし。



「お子さま舌の衣沙くん」



「っ……うるさい」



「週末どうしよっか。

衣那くんと満月ちゃんへのプレゼント買うんでしょ?」



この間髪を切ったようで、衣沙の髪はすこし短くなっている。それでも男の人にしたら長い方だとは思うけど。

相変わらずミストパーマでふわふわの髪に撫でるように触れれば、衣沙が猫みたいに目を細めた。