でも、人生ってそう悪いことばっかりじゃない。

その後俺の引きずったままの初恋は実ったし、馬鹿げた独占欲も「うれしい」って言ってくれる。



「王子さまになれたわね、衣沙」



ふわり。

笑うなるみ。いまの視線の先は、俺じゃない。



「……あっちは兄貴だよ、なるちゃん」



「うん、わかってるわよ。

衣那くん、すごくタキシード似合ってる」



中秋の名月。

婚姻届を結婚式当日に提出したふたりは、今この瞬間、この場所で、永遠の愛を誓う。



規模の大きい結婚式ではないけど、流兄もなるせももちろん参加してる。

そういえばこの間、なるみとふたりで、4人で買ったプレゼントをマンションに持っていったらずいぶんと喜んでくれていた。




あの性格がよろしくない兄貴でもそんな顔できるんだってぐらい、しあわせそうに笑ってる。

満月ちゃんは言わずもがな綺麗で、何の脈絡もなく、このままふたりは一生しあわせなんだろうって思った。



運命なんて、いつ変わるかもわからないのに。

なのに、根拠も何もなく、ただそう思った。



「……俺は、王子さまでいいの?」



「……どうしてだめなの?」



「だってなるちゃん、

報われない方を好きになるタイプじゃん」



「………」



どこか恨めしそうに俺を見る彼女。

だけど発言に覚えがあるせいか、彼女は押し黙って、それから幸せそうなふたりの姿を見つめながら。