自分の荷物をある程度片付けた健人は螺旋階段でリビングに降りた。玄関でダンボールの上に座ってるTシャツの女子と視線が合う。名前は工藤夏実。一見、健人と同年代。


「あ!良い所に!おーい、君ー!」


「・・・はい?」


一応周りに誰かいないか見渡して、自分宛なのを確認して返事をする健人。


「そう!君!ここの人だよね?」


「えっと、まぁ、今日からです。」


ニッと笑うと、ダンボールから飛び降り、その座っていたダンボールを指差す夏実。


「だよね!私もなんだけど、あの、これ!3階まで運んでくれない?私、力無くて持てないの。」


確かに、見た感じは華奢な腕。


「でも3階は立ち入り禁止って大家さんが・・・。」


「大丈夫!多分誰もいないから!平気平気!」


「多分って。・・・ったく、分かったよ。」


ペースに流され、つい敬語を忘れる健人。


「どの部屋だ?」


「上がったら分かるよ!ドア開けてるから。」


「無防備だな。」


「男子は立ち入り禁止だもん。」


「お前なー。」


「・・・それとも何かするの?」


「俺はしねーよ。でも少しはだなー」


「大丈夫だよ!私強いから!何かあったら返り討ちにしてやるんだから。」


そう言うと「シュッシュッ」とシャドーボクシングを始める。


「だったら自分で持ってけよ。」


「へへへっ、嘘!本当に持ち上がらなくて困ってたの。お願い・・・!」


顔の前で手を合わせてギュっと目をつぶる。その後に片目だけ開けて様子を伺う仕草が妙に可愛い。


「勝手な奴だな。」


はぁ、とため息をついてやれやれといった様子でダンボールに手をかける。


「うお、重いな。」


「だろー。」


「何で誇らしげなんだよ。」


「恩は売っといて損はしないぞー。同じ家に住むんだから。足元気を付けてね。」


「恩なんて感じねータイプだろ。」


「なにー?」


ダンボールを持って階段を登る健人の後ろを、夏実は手を後ろで組みながらついていく。ぷくっと膨れる仕草も、やはり可愛い。




「ここでいいのか?・・・おい。あれ・・・?」


3階の扉が開いてる部屋の前に辿り着き、呼びかけるも応答がなく、振り返ると夏実の姿はない。階段の上から様子を伺うと、ようやく上がってきた。


「何してんだよ。部屋ん中荷物置いといたぞ。」


「ありがとう!めっちゃ助かった!コーヒー奢る!」


「いいよ。いらない。」


「えー?何でー?ジュースがいい?」


「俺はなるべく他の住人に干渉したくねーんだよ。」


「・・・平沢君!」


階段を降りていく健人を呼び止める夏実。


「え?何で名前・・・。どこかで会った?」


「・・・ううん。初めましてだよ。」


「は?・・・お前、さっき俺の部屋入ったろ。」


「へへへ、お互い様でしょ!」


「お前、お互い様って、それは」


「私は工藤夏実!よろしくね!」


「・・・ったく、本当に勝手な奴だな。」


健人は腰をポンポンと叩きながら自分の部屋に戻っていった。