優衣はお兄ちゃんが頷いたのを見て話し始めた。

「私が殴られていたのは知ってるよね。そのことで中学のころ家出したことがあったの。宛てもなく繁華街を歩き回って、裏道に入ったとき後ろから男たちに口を押さえられて建物に連れ込まれて、レイプされた。」

優衣が言い終えたとき、隣にいたお兄ちゃんが優衣の肩を抱いて慰めていた。

「美愛はこんな私でも汚れてないと言えるの?」

「言えるよ。優衣が汚れてるのなら私は...」

お兄ちゃんは私が言おうとしていることがわかったのか静かに頷いた。

「私は、お兄ちゃんは人間じゃない。化け物だから。」

「え?」

「このことは誰にも知られないようにしてきたんだけど、私たちの母さんは鬼なの。だから母さんの半分引いてる私たちは鬼なんだ。」

優衣はその言葉を聞いて信じられないという顔をした。

「嘘でしょ。どこも私たちと違うところなんてないよ?それに角も無いし。」

「本当なんだよ。私たちは傷が治るのが人間より速いの。」

私は近くにあったはさみを取って自分の腕に近づけた。

お兄ちゃんははさみをすんでのところで奪い取った。

「俺が証明する。大事な妹を治ると言っても傷つけたくない。」

お兄ちゃんは優衣の前に移動して、腕を切りつけた。

ツーと血が流れ、優衣はティッシュを手にとって傷を押さえようとした。

だが、優衣の手がお兄ちゃんの腕に触れる前に止まっていた。

「傷が消えてる。」

優衣は驚きながらもお兄ちゃんの腕についた血を拭った。

「俺たちが気持ち悪いだろ。今まで信頼して事実を明かしたやつらもみんな俺たちから遠ざかっていった。だからあいつらにも言ってない。言えない。」

私は俯いて優衣の罵声を待っていた。

だが、聞こえてきたのは罵声ではなく、優しい声だった。

「べつに、気持ち悪くないよ。それに美愛は美愛、龍兎くんは龍兎くんでしょ。他の人がどう思おうと知らないよ。レイプされて暴力も振るわれて、親にも捨てられた私を二人は受け入れてくれたんだから。私は感謝の言葉しか出てこないよ。」

優衣がそう言ったとたん、私の目から涙が出てきた。