「そうだろうね。でもこの世界とは何の関係もなさそうだ。見る限り、この倉庫の前にいたのもただの偶然だろうし。」

私は巻き込まれないようにと幹部室の窓から見ていたけど、その女の子のことがなんだかすごく気になって倉庫の前まで走っていった。

「ちょっ!?美愛!?」

倉庫を出ると、野次馬がたくさんいた。

「美愛、降りてきたら危ないだろ。」

お兄ちゃんは静かにそう言った。

「ごめん。でもなんだか気になって。」

お兄ちゃんは私を背中に隠すと、ナイフを持った男の前に立った。

「な、なんだよ!やんのか?」

男は女の子を突き飛ばしてお兄ちゃんに向かってナイフを突き出した。

私はすかさず突き飛ばされた女の子に駆け寄り、倉庫の中に入った。

私の動作を見届けると、お兄ちゃんは笑ってナイフを叩き落し、まわし蹴りを食らわせた。

男はその一撃で伸び、お兄ちゃんが警察を呼んで事件は一件落着となった。

「大丈夫?」

「はい。」

女の子に声をかけると女の子は立ち上がって返事をした。

「首に怪我をしてる。ちょっと待っててね。」

私は女の子の首を見て、包帯を取りに行った。

「そういえば、名前を聞いてなかったね。教えてくれる?」

「上沢優衣。」

上沢さんをソファに座らせて傷の手当をした。

「よし、これで大丈夫。私は土方美愛って言うの。あ、お兄ちゃんおかえり。」

「ああ。お前大丈夫か?俺たちと同じ高校だろ?」

「そうみたいですね。手当てありがとうございました。私は帰ります。」

上沢さんは立ち上がって出口に向かっていった。

「お兄ちゃん、怪我した女の子を一人で帰すつもり?送ってってあげて。」

「わかってる。」

お兄ちゃんは上沢さんの手をつかんで倉庫においてあった自分のバイクに乗せた。

「ちょっと行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」

お兄ちゃんが出て行って数分が経ったころにやっとみんなが来た。

「遅かったね。」

「疲れた。俺たちの担任、話長い。」

そう言ったのは女嫌いの靖人くんだった。

靖人くんは私と話すときだけ甘えたような声を出すのだった。

最初はそのギャップに驚いていたが、もう慣れてしまった。

「お昼ご飯はありますか?」

「あるよ。すきなの取ってっていいからね。」

私がそう言って微笑むと裕輔くんの顔が赤くなった。

「裕輔くん風邪でも引いた?」

「なんでもないです。飲み物買ってきますけど、何か欲しいものありますか?」

「私、いつもの飲みたいな。」

「じゃあ買ってきますね。」

裕輔くんは私の飲み物を買いに行ってくれた。

「あいかわらず、裕輔は美愛にだけ甘いな。」

影近くんが横から話しかけてきた。

「そうかな?」

「無自覚か。」

「?」

私は影近くんが言った言葉の意味を考えていたがさっぱりわからなかった。

「そういえば、龍兎はどこに行った?」

「女の子を家に送ってった。」

私がそう言うと、影近くんと靖人くんが驚いたようにこっちを見た。

「あの龍兎が女を送ってったのか?」

「女?女なんか大嫌い。龍兎は美愛一筋じゃないの?」

「勘違いだから。そういう関係の人じゃないよ。さっきニュースで殺傷事件があって、その犯人が女の子を人質にこの倉庫の前で暴れてたからお兄ちゃんが気絶させて女の子を助けたってだけだよ。でもいずれあの子は私たちと関わることになるかも。」

「どうして?」

「私があの子に興味を持ったから!それにあの子なら私の友達になってくれそうだしね。」

私の言葉を聞いて靖人くんが聞いてきた。

「その女は俺たちに媚を売るような女?」

「私がみんなに媚を売るような女と友達になってくれそうなんて言うと思う?それにあの子、何か闇を抱えてるみたいだった。」

私たちが話していると、ジョンくんが自分の部屋から戻ってきた。

「美愛、上沢優衣について調べてみたよ。今の自宅はスバルという養護施設になってる。その養護施設で職員からの虐待を受けてて、あと二ヶ月ほどで一人暮らしをする予定らしい。」

「そうなんだ。でも闇はそれだけじゃなさそうだね。」

私とジョンくんの話を邪魔するかのように、外からいくつかのバイクの音が聞こえた。

外に見に行くと、飲み物を買いに行っていた裕輔くんと戻ってきたらしいお兄ちゃん、そして盟狐のメンバーがいた。