「いい印象、ね。何かした記憶はないんだけどなあ」

「凄い些細なことかもしれないですよ? 例えば、美味しかったって帰り際声掛けたとか」

「え、そんなことで?」

「意外としてない人って多いんですよ。そういうのって店員側からしたら嬉しいものじゃないですか」


してたっけ。首を傾げて考えてみる。いつも帰り際、ごちそうさまでしたとは言っている。
でも、それって普通に言うものだと思っていたから特別だと感じたことはない。


「あーそれ、わかるかも。上司でもさ、頑張ってねとか、ありがとうって一声あるだけで違うもんね。
その点、確かに楓は言っているかも。そういうのって自然と言えると素敵だよね」

「律ちゃんまで」


沖くんも律ちゃんの言葉にうんうんと首を縦に振っている。


「そんなもんだよね。人が人を好きになるときとか。
なんっとも思ってなかったのに、突然意識したりとかね」

「そうですよね。大石さんって今の彼氏さんのどこが好きになったんですか?」


しみじみと言った律ちゃんに沖くんが尋ねると、「うーん」と小さく彼女は唸った。