「よかった。俺だけ名乗らないのも失礼なので、俺のことは丸山と呼んでください」

「丸山さん」


噛み締めるように私はその名前を口にした。彼に名前を教えてもらったことも、そう呼んでいいと言われたことも、全てが嬉しくてしょうがなかった。


「はい、小野寺さん。お待たせしました」


サンドウィッチが乗ったお皿がコトリと音を立て目の前に出された。
今日は目玉焼きや野菜が挟んであるサンドウィッチだ。


「今日も美味しそうです」

「そう言ってもらえると作る甲斐があります」


他のお客さんの接客をしながら、たまに私と会話を交わす穏やかな時間。


「またお待ちしてますね」

「はい、明日また来ます。ごちそうさまでした」


そうやってお互い笑顔で言葉を交わし、私はcafeレインを後にした。

〝丸山さん″との会話は全て心に大切に刻まれている。
名前で呼ぶ関係になれたことは、大きな大きな前進だった。

話すようになって彼のことがどんどん好きになっていく。
料理を作る動作や、優しい笑顔。
自惚れているわけではないけれど、他のお客さんより自分はずっと彼に近いと思えた。


律ちゃんに報告しよう。彼女ならきっと喜んでくれる。それに、沖くんも。
明日休みだし、二人を今日飲みに誘うのもありだな。


うん、そうしようっと。
会社に戻る私の足取りはとても軽かった。