こうして友達から抱き締められることなんて、学生以来でドギマギしてしまう。
だけど、律ちゃんが「良かったねえ」と何度も言っていて胸が温かくなった。
バチっと沖くんと目が合って私達は苦笑し合った。
「ステップアップだね。もっと仲良くなれるといいね」
「そんなうまくいくかはわからないけど、やれるだけやってみる。折角沖くんがきっかけくれたんだしね」
「今度沖にご飯でも奢ってやらないとだね」
「うん。そうする」
頷きあって私と律ちゃんは仕事へと戻った。
パソコンに向かい、電話対応をしながら私は、今度本当に沖くんにご飯を御馳走しようと心に誓った。
翌日、ランチの時間になりいつも通り私はcafeレインへと向かった。
沖くんも誘ったけど、今日は他の人とご飯に食べに行く約束をしているらしく断られたから、一人で行くことにした。
「いらっしゃいませ」
変わらないモスグリーンのエプロンを身に着けたオーナーの低い声が出迎えてくれる。
私に気付くとニッコリと笑って、「どうぞ」とカウンターを手の平で差した。
「えっ」
それが予想外で、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
オーナーはずっとカウンターを差し、動かすことがないから私は「失礼します」と小声で言ってからおずおずとカウンター席に座った。


