「とにかく、俺が言いたいのは小野寺さんに後悔して欲しくないってことですよ」
「……沖くん」
私は隣を歩く沖くんを見つめる。彼は私のことを心配して、そして応援してくれているんだ。
「当たって砕けろなんて本気で思ってないですけど、それでも、そのぐらいの方がきっと未練残さないんじゃないかなって」
「うん、ありがとう」
「あ、別にうまくいかないとか思っていないですよ?
オーナーは顔を覚えるのが得意って言っていたけど、俺は小野寺さんを覚えていることに脈を感じました!」
片手でガッツポーズを作ると、満面の笑みを浮かべ私を見る彼の瞳は少年のようにキラキラとしていた。
「えっ」
「だって、満席ではなかったけどそれなりに入っていたじゃないですか。
その全てを覚えているわけないですし」
「わからないよ、覚えているかもよ」
「オーナーはそんな超人なんですか。それ一種の才能ですよ」
「まあ、それには私も確かに驚いたけど」
「ですよね!?」
同意すると、沖くんは嬉しそうに目を輝かせる。
私のことなのにどうしてここまで喜んでくれるのか。
本当に優しいなあ、沖くんは。
親身になって話を聞いてくれたり、自分のことのように喜んでくれる。こういうところがモテるんだろうなあ。


