「お好きな席どうぞ」


オーナーは気だるげな声だけど、愛想よく笑って見せた。
その声に沖くんは「どうもー」と言うと迷わず、カウンター席へと進みオーナーがいつも座っている場所のあろうことか目の前に座った。


テーブル席に案内しようと思っていたのに。
思ってもいない行動に、私は頭が真っ白になりなにか言うことも、沖くんを止めることも出来なかった。


ただ、その一連の動作をただ見ているだけ。


「どうしたんですか? 小野寺さん。こっちこっち」


ぼーっと突っ立っている私を見て、不思議そうに目をくりっとさせた彼が隣の席をぽんぽんと叩く。
それにハッとして、我に返った私は慌てて彼に近付く。


「お、沖くん!? あっち、あっち座ろうよ」

「え? どうしてですか?」

「だ、だって」

「えー。じゃあ、聞いてみますよ。オーナーさん、ここって迷惑ですか?」


私はあああああと心の中で叫び声をあげた。
穴があったら入りたい。沖くん、聞いてない。こんなことするなんて聞いてない。


だけど、あっさりと

「迷惑じゃないですよ。カウンターも客席なので、お好きな場所で大丈夫です」

オーナーがそう言ったから私は大人しく沖くんの隣に座った。