ここで出す料理がすごく好きというのもあるが、それ以上に私はオーナーに惹かれていた。

ゆるいパーマをあてたような黒髪。もしかしたら癖っ毛なのかもしれない。
目が隠れそうな前髪。髭も生えている。
白いリネンシャツに、ベージュのパンツ。モスグリーンのエプロン。その胸元にcafeレインと書いてあった。

黒ぶちのメガネから覗く、二重瞼でアーモンド型した目。
身長だって高い。百八十近いはず。
アコースティックギターを持って、弾き語りとかしていそうな雰囲気。

いや、実際はカフェのオーナーなのだけど。


「おー、まる~」


カランと鐘の音が鳴りながら、扉が開いたと同時に聞こえる声。
その人物を私は見た。名前も顔も覚えている。


「はあ、望。また来たのか」

「来ちゃ悪いかよ。まるが寂しいかと思ってさ」

「寂しくなんかないっつうの。むしろ、お前がいなくて清々しているっつーのに」

「あーあー、そうかいそうかい。そんなこと言っちゃうのね。大親友の俺に」


そう言いながら、望と呼ばれた男性がカウンターに座る。
仕事中なのか、彼はスーツ姿だ。短髪をツンツンと立てている。
少し太めの整えられた眉毛。二重で、少し垂れ目。
大親友と言っていたが、本当にそうなのだろう。

オーナーは彼の前だと、笑顔が柔らかい気がする。