「はは、ごめんごめん」

ぴたりと立ち止まる丸山さんは、ぽつりと呟く。

「………………花」

彼の体の横から覗かせると丸山さんの部屋、三〇三号室の前には花さんがしゃがんでいた。
丸山さんに気付くと、花さんはぱあっと笑顔になる。どう見てもその目は泣き腫らした目だった。

「拓!」

「……はあ、家にくんなって言っただろ」

花さんに丸山さんは低く、冷たい声を出して突き放した。

「だって、拓のこと、好きだから」

「俺は前から好きじゃないって言っただろ」

「なんでっ、その人のせいでしょ! 拓が冷たくなったのって、その人が現れたからでしょ!」

花さんはキッと私を睨みつける。

「お前彼氏に振られたからって俺のとこ来ただけだろ。そんなのわかってんだよ」

「違う、私は拓を」
「うるせえな」

静かだけど、迫力があるその声にびくっとなったのは花さんだけじゃない。私もだった。

「確かに昔、俺は花のこと好きだったよ。でも、お前二股してたよな」

「……それは」

花さんが言葉に詰まらせているから本当のことなのだろう。

「本気で好きだった気持ち、踏み躙られたんだけど」

「だって、……だって、拓って連絡くれないし。私のことを好きだったのか本当に不安だったの」

「花は……俺がそういう奴だって知ってると思っていたよ」

情けなく笑う丸山さん。花さんは涙をぽろぽろと流す。


「でも、俺ももっと好きだって伝えればよかった。ごめん」

「うっ、う、うう」

泣きながら首を振る花さんの体を丸山さんが支えた。