それから一時間ほどして仕込みが終わった丸山さんはエプロンを脱いでカウンターへと置く。疲れたのか、一度大きく伸びをした。

「は~、お待たせしてごめん」

「大丈夫です、大変ですね」

「お客さん増えるとは思っていたけれど、予想以上」

毎日あの行列になるって考えたら本当に大変だろうな。
しばらくお店に行くの控えるしかないかな。って考えていたら。

「あ、小野寺さん。店に来るのやめようとか考えてます?」

と、心の中を読まれて焦った私は思った以上に大きな声が出た。

「そんなことないですっ」

「本当かな。俺、小野寺さんの顔見たら元気出るから来てくれると嬉しい」

屈託ない笑顔で言われると、ドギマギしてしまう。だから、私は尻すぼみになりながら「はい」と答えた。丸山さんにはクスクスと笑われたけれど。

店を後にして丸山さんと私は駅までの道を並んで歩く。

「手、繋いでもいいです?」

丸山さんがふいにそう尋ねてくる。私は戸惑いながらも頷いた。

「よかった」

するりと伸ばされた手。その手はしっかりと私の手を捉え、指を絡ませる。
思っている以上に大きな丸山さんの手が、男の人だってことを再認識させた。緊張で体が強張っていたらしく、丸山さんはまたクスクスと笑った。