まさか!私がボーとして運転していたせいで事故を起こしたのに、相手の方に病院に連れて行ってもらうなんてとんでもない。

「そんな!大丈夫です。これくらいバンドエイドを貼っておけばすぐ治ります」

「何言ってるんだ。ちゃんと治療しないとダメだ。さあ、行くぞ」

そう言って私を横抱きに立ち上がると、先程ぶつかってしまった車へと歩いて行く。

地面までの高さからこの人はかなりの高身長だと思う。

そんなことを考えているうちに、ドアを開けられた後部座席に座らせられた。

「佐賀、とりあえず近くの病院に向かえ」

落ち着いた声に、ドアを開けてくれた佐賀さんって人は「はい」とすぐに答えた。

それを聞いて私は慌てた。

これから病院になんて行けない。仕事に遅れちゃうもの。

それにこの人達にそんな迷惑かけられない。

「あ!あの、本当に大丈夫です」

「そんなわけないだろう」

「本当です。転んだり擦りむいたりなんて日常茶飯事なので。それに・・・お気遣い頂いて申し訳ないのですが、仕事に遅刻するわけにいかないんです」

申し訳ないのだけど、もう時間がない。

そう焦る私に社長と呼ばれる目の前に立つ男性は「しかし・・」と渋い表情を見せる。

そんな私達の押し問答にドアを開けている佐賀さんと呼ばれた人が間に入った。

「社長、こちらの方にも都合がございます。怪我の具合は私が後でお伺い致しますので、今日のところはこの辺で」

そうハッキリと伝えると、今度は私の方を向いて口を開いた。

「お時間をかけて申し訳ございません。他にどちらか痛む所は今の所大丈夫ですか?」

「はい」

私が大きく頷くと、確認するように佐賀さんも小さく頷いてみせた。

「それではとりあえずこれから貴方様の職場まで送らせて頂きます」

「えっ!そんな・・」

言い終わる前に言葉を重ねて遮られてしまう。

「こちらも貴方様のことが気掛かりですので、その辺は譲歩して下さい。自転車も走れる状態ではないので、修理を必要とし今乗られることは不可能かと思います。それから会社に向かう車中でこれからについて話し合う連絡先などをお聞きしたいと思います。今警察を呼ぶことができないとなりますと、相互での示談となりますがよろしいでしょうか?」

そう言われてしまうと、私はもう逆らうことができない。

だって私のせいで事故を起こしてしまったのだもの。