オオカミ社長は恋で乱れる

「すごく可愛い人だよ」

その言葉と口調の柔らかさに奥様も会長も息を呑んで驚いている。

それもそうだろう。

『まったく...あの子いつも冷たいんだから!』と社長に対して常々怒っているような呆れている声を上げる奥様。

普段の社長から発せられるとは思えない発言に驚かれるのも無理はない。

「何だよ....」

呆気に取られて言葉を発さず凝視しているお二人に、気まずい気持ちからかぶっきらぼうに返している。

それでもいつもの跳ね返すような口調とは違う。

頭の中に清水さんのことがあるからだろう。

そんな社長に会長が少し微笑みながら、「いや、お前が可愛いと言うのだからきっといいお嬢さんなんだろう。お前がそんな人に出会えたことが嬉しいんだよ」と穏やかにおっしゃった。

その言葉にどこか安心したような表情で頷いた。

「それで?お相手の清水さんがお前との結婚を受け入れてくれて、お子さん達はどうなんだ?お前の事を受け入れているのか?」

「ああ、悠も凛も俺の子だ。ちゃんと父親だと思ってくれている」

息子のあまりに端的な物言いに、会長はやや戸惑い私に視線を寄こしてきたので、そこは補足することにした。

「社長はお子様達を溺愛され、お子様達もとてもなつかれています。既にパパと呼ばれていますし、おひとりでお子様達の面倒を見られたりもしています。皆さんいつも笑顔でとてもいい関係を築かれていらっしゃると思います」

そうお伝えすると「まあ!優貴が?信じられない....」と奥様が呟いた。

「自分の子なら誰だってそうするだろ」

あたりまえの様に返した社長。

そんな社長を会長は真っすぐに見つめて問う。

「その気持ちを持ち続けていけるのか?」

「あたりまえだろう。俺の子だ」

会長の言葉に社長の目つきがグッと強くきついものになった。

でも会長は変わらず穏やかに続けた。

「自分がどんなつもりでも、血の繋がりを時の経過が変えてしまうかもしれない。もしかしたら子供達の成長が感じさせてしまうかもしれない。お前の立場に周りも騒ぐだろう。貶めようとする人もいるはずだ。その子達は何歳になっていても心を痛めるだろう。その時、妻を子を守れるか?簡単じゃないはずだ。それに.....お前の子供ができた後の事も考えているのか?それぞれの気持ちの変化を」

重たい言葉にその場の空気が張りつめた。

とても気まずいけど、大切な話である。

いつもの社長なら冷たい対応ですぐ返されるのに、大切なお子様の話のせいか一度視線を落として間を置いた。

そしてまた視線を上げると会長を真っすぐ見て言葉を返した。

「悠も凛も俺の子なんだ。西条 悠・西条 凛として共に生きて行く。全力で守るし、2人が迷い悩むなら寄り添って絵莉と幸せにしていく。それは今後子供が何人生まれても変わらない。長男が悠で長女が凛で、悠と凛の弟や妹が生まれてくる普通の事だ。他の家庭と何ら変わらない。俺の気持ちも変わらない。世間やマスコミの対応は俺がしていく。俺の家族だから。だから父さんも母さんも受け入れてくれないか?頼む」

そう言って頭を下げて願った。

その瞳には迷いがなく、父親としての意思を伝えている。

『俺の家族』

それが会長の問いに対する十分な答えだったのだろう。

「そうか。だったら私達は見守っていくことにしよう。何かあったら相談してくるといい。自分の家族を幸せにしてあげなさい。まあとにかく近々会わせてもらいたい。美弥子もそう思うだろう?」

「ええ。すぐにでもお会いしたいわ。あんなに結婚に無関心だった優貴をここまで変えてくれた方ですもの。それにお子さん達にもね。あなたがパパって呼ばれてるところ早く見たいわ」

興味深そうに微笑んで見せた奥様に社長は素直に「ああ、分かった。連れてくるよ」と答えた。

そんな穏やかに交わされる様子を眺めながら、こんな風に社長が会長と奥様と語られる日を迎えられたことを感慨深く思った。