空の君に手をのばして

「早いよねえ。もうあれから十年か」



















仕事終わりに、上がりが一緒だった桃花の家に来ていた。






















「そうだね。時が経つのって早いね」






















颯斗が亡くなって、看護師になると決めた日から早くも十年。























あの頃はまさか本当になれると思っていなくて、別の仕事も探そうと思っていたくらいだ。
























でも、そうしなかったのは颯斗のあのメッセージがあったから。
























颯斗みたいに、生きたくても生きられない人を助けたいと思ったあの日のことを思い出し、難しい看護師の勉強も必死に頑張った。
























「前から聞こうと思っていたんだけど、何で桃花は看護師になろうと思ったの?」






















最初は純粋に、私と同じように看護師になるって言ってくれて嬉しかったけど、桃花の志望理由ってちゃんと聞いたことなかったかも。

























「私ね、颯斗くんが亡くなった時凄く悲しかったの。どうして神様は助けてくれなかったの?って何度も思った」























同じだ。神様どころか、笑っているお葬式に参加している人にまでイライラしてきて。






















「でもね、颯斗くんのあの日記見て思ったの。一番怖かったのは颯斗くんだけど、一番治るって信じていたのも颯斗くんなんだって。だから、そんな人に私もなりたいって思ったんだ。希望を持てばきっと、良いことがあるって病気の人に教えたかったの。だから看護師になったんだ」























知らなかった。桃花は、あの頃そんなことを考えていたんだ。























「そっか。じゃあ、私と同じだね」




















患者さんの希望になりたいと思って看護師になった桃花。





















颯斗みたいな病気になった人を助けたいと思って、看護師になった私。
























言葉は違うけど、どっちも患者さんのために看護師になった。





















自分で言うのもなんだけど、とても素敵なことだと思うんだ。






















空にいる颯斗はこれを喜んでくれているのかな。






















「ふふ。そうだね」





















「うん。あ、そういえば春馬は?」






















春馬は高校卒業後。





















先生の資格を取って、私たちの母校の先生になった。

























「同僚と飲み会。だから、今日は私たちの女子会だよ!」






















ジョッキに注がれたなみなみのビールで乾杯した後、一気に飲み干した。























そして、二人で叫んだ。

























「美味しいー!」























棚に飾られていた私たちみんなで撮った写真の中にいた颯斗が優しく笑ってくれているような気がした。























私はその後、夜遅くまで語り合い、飲み合った。
























中には桃花の春馬への愚痴まで含まれていたりと、お互い本音を言い合った。