空の君に手をのばして

十年後。






















「優杏!安藤さんが呼んでいるよ!」






















「はい!」
























私は高校を卒業後、大学に入って一年間の研修期間を経て看護師になった。


























あの時、慌てて病室を出たり入ったりしている看護師にまさか自分がなるなんて思っていなかったけど、颯斗が亡くなった後どうしても看護師になりたいと思った。






















颯斗のように病気になった人を助けたいと思ったんだ。
























「安藤さん。どうされましたか?」






















「優杏ちゃんかい?いや、君と話がしたくてね」


























最初は失敗ばかりで先輩に怒られて心が折れそうになったけど、颯斗が残してくれた日記を見て励まされた。

























あの時、懸命に生きようとした颯斗に負けないように、私も頑張らなくちゃと思えた。
























今では看護副長にまで昇りつめた。






















「気持ちは嬉しいですけど、私たちだって忙しいんだからそんなことで呼ばないでください」




















「優杏ちゃんがわしの専属看護師だったら良かったのに」
























患者さんが亡くなったら悲しいけど、助かった時は嬉しい、だからこの仕事は楽しい。



























「優杏ばかり見てないで、たまには他の看護師も見てくださいね。はい、点滴打ちますよ」




















今安藤さんに点滴を打っているのは、私と同じ大学に通い同じ病院に勤めることになった桃花。























無事に看護師になれた年、春馬にプロポーズされて結婚した。あの時の桃花、本当に綺麗だったなあ。






















「桃花ちゃんはもう結婚しとるじゃろうが」

























「優杏をそんな目で見ているんですか?それセクハラですよ」





















「うるさいわい」






















この仕事をしていて周りからは、辛くないの?
























とか辞めたいと思ったことないの?と言われたけど、頷いたことは一度もなかった。

























だって、患者さんや他の看護師さんは良い人ばかりだし、何より助かって「ありがとう」って言われた時は凄く嬉しい。