私は昼休み、教室の窓際の席に座り、ふぅとため息を漏らした。

「先生たら、雑用多すぎだよ〜…」

昨日の放課後、友人の茉夏ちゃんと一緒に帰ろうと思ったら、担任に雑用を頼まれたのだ。
しかも、私が日直だからと言う理由で。
「昨日のことだろう」という人もいそうだが、私は次の日になっても引きづるタイプの人間だ。それに、昨日の約束はとても行きたかったから。
しぶしぶ茉夏ちゃんとさよならし、小一時間ほど書類や棚の整理などを終えて家へ帰ってきたころには、もうヘトヘトで即ベッドにダイブしたのだった。

「…茉夏ちゃんと新しいカフェ行く予定だったのに〜…」

茉夏ちゃんは一人でそのカフェに行ったのだろうか。
それとも、他の友達を誘ったのだろうか。
茉夏ちゃんは明るくて人気だからなぁ…。

茉夏ちゃん__猫田茉夏__とは、高校の入学式から仲良くなった。生徒手帳を落とした私に声をかけてくれたのが茉夏ちゃん。
一緒に探してくれて、そこから仲良くなった。
茉夏ちゃんは美人で明るくて、クラスで人気者だ。
ミディアムの茶髪が内側で巻かれていて、目元では赤いフレームの眼鏡が光っている。八重歯がトレードマークで、身長は百六十五センチと高いほう。
それに対して私は、これと言って特徴のある顔でも無ければ、特に特技がある訳でもない。身長も低くて、いつも茉夏ちゃんを見上げてしまうほど。
そんな私のトレードマークは、腰まで伸びたさらさらの黒髪くらいだろうか。そのぐらいしか思いつかないほど私は平凡な人間。
そんな私は茉夏ちゃんと違って人見知りで、彼女以外とあまり親しくはない。そのため、暗いと見られがちだ。(いや、まぁ実際暗いんだが。)

今考えても不思議だ。
どうして、茉夏ちゃんが私と仲良くしてくれているんだろう。
明るい茉夏ちゃんと、暗い私。
正反対の私たちだけど、茉夏ちゃんは「梨々花といると落ち着く」と言ってくれる。
ただ単に、無口だからでは__?とも思ったが、そこは口を噤んでいる。
しかし何にしても、私と仲良くしてくれている茉夏ちゃんは、史上最高な私の友人だと、私は勝手に思っている。

そうだ。今度、「かい」くんに茉夏ちゃんの事を書いてみようか。


いや。それは私の正体が分かってしまいそうだから、言わないでおこう。
あーあ。私、いつの間にかかいくん中毒になっちゃってるのかなぁ。



「あ、いたいた!梨々花ーっ」

窓際にいた私に、茉夏ちゃんが呼びかけてきた。

「茉夏ちゃん。どしたの?」

私が呑気に言うと、茉夏ちゃんは何を言っているんだという顔で私の顔を覗き込んできた。

「何言ってんの!昼休み終わっちゃうんだけど!ずっと待ってたのに来ないとか、あんた私とご飯食べる気あんの!?」

「あ……」

そうだった。忘れてた。
お昼はいつも、屋上で茉夏ちゃんと食べる約束なのに、私ってば色々考え過ぎてて忘れてた。

「ごめんね!なんかぼーっとしちゃってた…」

「ほんと馬鹿だねー。ぼーっとして時間忘れんのが梨々花の悪い癖!てか、あんた私がいないと一人なんだから、ぼっち飯になるんだよ!分かってる?」

私は親に怒られる子のように肩をすくめた。

「ハイ…すみません…」

「もー!早く行くよ!」


…うん…。

いや、サバサバ…(いや厳しい)してる茉夏ちゃんも、好きだよ………?