ずっと心の中がもやもやして、有馬くんのことを見れずにいる。
私が言った言葉、気にしてないかな。
私の気持ちにばれてないかな。
二人に対する気持ちを言葉にしたとたん、実感がわきすぎて。
そんなことばかり気にして。




少しの間公園のベンチに座って七瀬ちゃんと談笑していた。
温かったミルクティーも、すっかりぬるくなってしまって。
まるで、煮え切っていない私の心のようだなとも、思ってしまった。
七瀬ちゃんはそんな私を怪訝そうに見たが、そこには触れないでくれた。
そんな七瀬ちゃんは思ったよりしっかりしていて、はっきり自分の意見を言う子だということを知った。
そして、有馬くんに厳しいのは、彼を大切に思っているからだということも。
七瀬ちゃんは、有馬くんの話をするたび、憎まれ口をたたきながらも優しい瞳をしていることに気づいてしまったから。

七瀬ちゃんは、有馬くんのことが、大好きなんだ。

そこまで純粋に誰かを思うことができるんだなって、すごくうらやましく思う。
私はそんな風に思ったこと、たぶんないから。二人を好きになるなんて、どうかしてる。
私の心はけがれてしまったのかな・・・・



「お兄ちゃんがそろそろ怒るんで、わたし帰りますね。明日も早いし」


よいしょと立ち上がった七瀬ちゃんは、苦笑いで有馬くんに目配せをした。
有馬くんを恐る恐る見ると、七瀬ちゃんを睨んでいる。
どうやら寒いようだ。鼻が赤い。

「あはっ。一人でさっさと帰っちゃえば良かったのに」

「お前が言うな、さっさと帰れ。俺、高畑送るから」

「あーはいはいわかってます。わたしはじゃまなんだもんねぇ?」

そんな小喧嘩を聞きながら二人のもとに駆け寄ると、七瀬ちゃんは私に気づきぺこりとお辞儀をした。

「先に帰ります。話できて楽しかったです。お兄ちゃんのことお願いしますね。じゃあ」

早口で言い切った七瀬ちゃんは、私に近づいて、ぽそっと何か言ったと思うとすぐに帰ってしまった。

「あ・・・帰っちゃった・・」

「だな。・・じゃ、帰る?」

「あ、そうだね。なんかごめん、ありがとう」

「ううん。てか、俺こそごめん。あいつはなし長かったし、高畑寒いよな?ほんとごめん。」

「えっ、ううんぜんぜん!むしろ、楽しかったよ。あんな無邪気に
話してくれる人いなくって、嬉しくて。」

ほんとうに、嬉しかった。でも、最後の言葉は少し・・・いや、すごく気になる。


「そうか、良かったらまた話聞いてやって」

「うん。」

無言で帰り道、有馬くんと肩を並べて歩く。






私は、有馬くんを横目で見上げながらさっき七瀬ちゃんが言った言葉を消せずにいた。


『でもたとえ梨々花さんだとしても、お兄ちゃんは渡せません』



その言葉を脳内でリピートさせると、途端に目頭が熱くなってきたので息をわざと吐きごまかした。