それからも何度もユウの病室へは足を運んだけれど、預かった手紙のことについては、お互いに話題に出すようなことはなかった。


本当は分かっているのだ。

容体を考えてみれば、ユウが自分の時間をゆっくり使って自由に手紙を書けたのは、きっとあの頃が最後だったから。

ユウは分かっていたんだ。自分の限界を。残された時間を…。

でも、俺は素直にそれを認めたくなかった。

そんな俺の気持ちさえも、ユウは分かっていたんだろうけれど。


俺は肩から掛けていたバッグから封筒を取り出すと、それを遥の前へと差し出した。

「これは…?」

差し出されるままにそれを受け取りながらも、遥は不思議そうに首を傾げる。

「ユウから預かったんだ。流石に誕生日プレゼントというには…何て言うか、重いかもしれないけど。でも、まだあいつが比較的元気な時に遥の為に一生懸命書いていたものだから…。受け取って貰えると嬉しい」

「ユウくんから…」

遥はこくりと頷くと、「ありがとう」と呟いた。


遥のことを思えば、本当は折角の誕生日に悲しい思いなどさせたくはないし、何よりユウのことは知らない方が幸せだと思っていた。けれど、これを書いたユウの気持ちを思えば…。

(結局、俺から渡すしかないじゃないか…)


『遥のこと、頼むな』

そう言って微笑んだユウの顔が頭を過ぎる。


手紙を預かってからずっと、どこか気を張って重苦しかった気持ちが、ほんの少しだけ楽になったような…。

肩の荷が下りた気持ちがした。