「待って!」


公園から丁度出た所で突然後ろから声が掛かり、蒼は足を止めた。

声の主は振り返らずとも分かっていたが、とりあえず呼ばれるままに公園内へと視線を戻す。

だが、振り返ってしまったことを瞬時に後悔した。

そこには泣きそうな顔をした遥がいたからだ。


「待ってよ、蒼くん…」

「………」


蒼は思わず動揺しそうになるのを表に出さぬよう努めると、とりあえず足を止めたまま遥の次の行動を待った。

遥は涙をこらえながらも懸命に言葉をつむぎ出す。

「どうして…っ…蒼くんが今日の約束のことを知ってるの?やっぱり…ユウくんから…聞いたの?」

「………」

「約束を忘れろって…。ユウくんは約束をなかったことにしたかったの?だから、蒼くんに頼んだ…。そういうことだよね?」

一つ一つ、確かめるように遥は問いかけて来る。

だが…。

「………」

蒼は上手く言葉が出て来なかった。

こらえていた遥の瞳からひとしずくの涙が零れていくのを、ただ目を見開いたまま呆然と見つめていた。


本当は「違う」と言ってやりたかった。

だが、否定してしまえば真実を口にしなくてはならなくなる。

遥の知らない、真実を…。


それだけは避けたかった。

真実を知れば、遥をもっと悲しませることになるかもしれない。


何も知ることだけが全てではないと思うのだ。

知らない方が幸せなこともある。


(でも、そんな顔をさせたい訳じゃない…)