「おーい、楓摩。楓摩」

何度か名前を呼ばれて、ハッと我に戻る。

「あ、ごめん。ちょっと、考え事してた。」

あの日から、朱鳥はなかなか熱が下がらず、うなされているため、朱鳥のそばに付きっきりの毎日。

だけど、その間も仕事は当然あるし、葉月と柚月の世話だってある。

特に忙しかった昨日なんて、午前中の外来が終わったあと、予定してあった手術を行って、一通り終わったら、急いで葉月と柚月を保育園に迎えに行き、一旦家に帰って、ご飯を食べさせて、お風呂に入らせて、寝かせてから、夜間保育園に預けて、それから病院に戻ってきて、みんな寝静まった病棟をそっと回診して、医局に戻ってきてカルテ整理と今日あった手術のレポートを書いて、気がつけば零時は近く。

それから、病棟が違う朱鳥の病室まで向かい、案の定うなされている朱鳥を少しなだめて、朱鳥が眠るまでそばにいた。

朱鳥が寝たのは2:00過ぎ。

当直ではないから、このまま帰ってもいいかな…と思った時にPHSが鳴って、患者さんの急変で呼び出しが来た。

そのあと、処置を終わらせてから、医局に戻り、今後、同じ発作が出た時の指示をカルテに書き込んだ。

そしたら、またPHSが鳴って、今度は久翔からの呼び出し。

朱鳥が、少しパニックを起こしていると聞いて駆けつけた。








全てのことが終わったのは朝4時で、寝る気にもなれず、医局で小児医学の論文を読んでいた。

それから、朱鳥が目覚める前に朱鳥の病室に向かった。

朝は特に、目覚めた時に、怖い夢を見ているとパニックになりやすいから、そばにいる。

それから、いつも通り今日も仕事があって……

まあ、少しボーッするのもしょうがないよな。

とまで考えてから、今またボーッとしていたことに気がつく。

「あ、ごめん。またボーッとしてた。」

と振り返ると、もうそこには誰もいなかった。

その代わり

"楓摩お疲れ様。少し疲れているみたいだから、今日は早く帰ってちゃんと休みなよ。話したいことは明日にするから。連日徹夜してんだろ?このままじゃ、近いうちに倒れるぞ。"

という久翔の字で書かれたメモと缶コーヒーが置いてあった。