その日

俺は、朱鳥にあの日のことを聞いてみることにした。

それが、朱鳥のトラウマの回復になにか手がかりになるかと思ったから。

「ねえ、朱鳥。この前のこと覚えてるよね?」

「…………パニックになっちゃった時?」

「うん。…あれさ、何があったか、俺、そこまで詳しく知らないんだ。……だからさ、教えてくれる?」

そう言うと、朱鳥は俺の白衣の裾を少しだけ握ってから口を開いた。

「…………あの日ね、私、パニックになった時、混乱しちゃってて……よく、わからなかったんだけどね…最近、冷静になったら思い出したの…。ずっと、怖い夢見たんだって思ってたけど……なんか、違ったみたい…」

「夢じゃなかったの?」

「うん……。…あの日、夜目を覚ましたらね、楓摩がいなくて、私、寂しくなって、泣いちゃったの。…………そしたらね、知らないおばさんが来てね"うるさくてねむれない""いい歳して何してんだ"……って怒られちゃった…。私、怖くなっちゃって、もっと泣いちゃって……その後はよく覚えていない…」

そう言い終わった朱鳥の目には、僅かにまた涙が浮かんでいる。

「知らないおばさんか……、少し久翔に聞いてみよ…。そっか、それで、昔のこと思い出しちゃった?」

コクン

「…そんなことあったら、大人への信用が無くなってもしょうがないよね……。…本当にごめんね、俺がついてあげれたらよかったんだけど……。本当、ごめん。辛いよね……」

コクン

朱鳥は、頷いてから俺にギュッと抱きついてきた。

「…………ど……しよ…。怖いよ…また、嫌なことされちゃう気がする……。そんなことしないってわかってるけど、体が拒否しちゃうの…。」

「そうだよね……。でも、きっと、少しずつ慣れていけば、前みたいに戻れるからさ。…俺たちが出会った頃みたいに、また、怖いのちょっと我慢して、少しずつ慣れていく練習、頑張れる?」

「……わかんない…でも、やんなきゃ……だから…………」

「うん。偉い。…俺も着いてるから、頑張ろうね……」