彼は授業中でもお構い無しにちょっかいを掛けてくる。
国語の授業中、唐突に背中をなぞられて何事かと振り返ると、
後ろの席の桃田椎が甘えたようなスマイルを私に向けながら、
ノートの切れ端の白い紙を突き出してくる。
いつも何なんだ。怪訝に彼を睨むと、彼は両手で口の周りを隠して
私だけに見えるように声に出さず口だけを動かした。
「好き」
その言葉に対していつも無反応でいることを心掛けている。
彼からしたら「好き」なんて言葉は「トイレ」と同じくらいの重さなのだろうし、
たいして何も感じられないので、
からかい程度で女の子に「好き」と言っているのだと思っている。
当たり前だろうけど最初は言われたりやられたりする度に心臓が早鐘を打って、
頬が赤くなっていたけれど、口を開くたびに「好き」と言ってくる彼の言葉に信憑性など微塵もなく、
言われている間に慣れた。今ではその言葉に嫌悪感さえある。
いつも通り発揮される愛嬌と白い紙を、
教師に気付かれないように素直に受け取って、机の下で開く。
「抱きしめていい?」
いや駄目に決まってるでしょうが。
私はこれまた聞き慣れた言葉の書かれた紙を机の中に突っ込んだ。