「ごめ……ご、んんっ!ごめんなさい、もう一回ラッパのソロから」

わざとらしい咳払いに、亜美は笑いを堪えていた。

がんばれ私……。

曲が盛り上がって部員の気持ちも高まったとき、また、あの髪が……。

風に吹かれた先生の目を細めた顔が浮かび、胸が苦しくて、涙が出そうになる。

「もっと、もっと遠くに音を飛ばすイメージで!打楽器もアクション大きく」

課題曲が終わると、部員の荒い呼吸音だけが聞こえる。

「今の課題曲良かったなぁ。先生入ってくるの躊躇ったぞ」

顧問がヘラヘラと笑いながら入ってくる。

「起立!お願いします!」

お願いします!とあいさつをする。

私たちの学校の吹奏楽部は、厳しいところもある。

でも、私たちらしい、いい音楽をするため。


ちょっと休憩したら、自由曲やるから、10分休憩。

先生がスコアを開く。

「ねぇ、さっきの讃美歌イメージのところの、スネアのタカタタンってところ、もっと粒を固くできる?」

「チホみたいに上手くないけど……やってみるよ」

同じパートの同期に気になったことを提案してみると、休憩中は休憩だから音出すなよ~と顧問に笑われる。

「はーい」

今度は私も演奏者になるために楽器を準備していると、亜美がニヤニヤしながらやってくる。

「ねね、さっきさ、何があったの?」

「別に?」

「なんか、2人だけの輝く世界みたいに見えたけど」

「見えてたんじゃん」

たぶん気付いたのは私だけだよと笑っていたけど、思い出すだけで

胸がざわつく。


恋?

こんな出会ってすぐ?

しかも先生に?


……いや、ないでしょ。

翔太を好きだった時、こんな気持ちじゃなかった。

好きだって思って、話すのが楽しくて、ゲーセン行ったり、カラオケ行ったり。


毎日笑ってた。