ハートのクリップ

「はぁぁぁぁ~」

「なんなのそのため息」

盛大にため息をつく私にくりくりの目を細める友人。

「だって、お姉ちゃんみたいに慕ってて(勝手に)大好きだった佐伯先生が、産休だなんて悲しすぎる」

「それは、チホが佐伯先生の優しさに甘えて、苦手な数学の赤点を免れてたからでしょ?」

「…………代わりの先生も優しいといいなぁ」

はいはい図星ね、と笑いながら、友人の亜美が顔をくしゃくしゃにする。



高校3年の私は、なぜ今までやってこられたのか不思議なくらい、数学が苦手。

数学が、というか算数から。

なぜ、計算式が必要なのか、証明はなんのために必要なのか、そんなことばかり考えて、問題を

理解出来ないのだ。

例えば、例題でA君は時速〇kmで歩き……

(どうやって計ったのだろうか)

こんな感じ。

でも、数学以外はほぼ満点。

先生たちも唸るほどの謎生徒となった。



数学の佐伯先生は、新卒の若い女教師。

ビシッとスーツを着て、ピンヒールをカツカツ慣らし、同性から見てもドキドキする色っぽさ。

だがしかし、人気の秘訣はそんなクールに決めながらも、透き通った肌に、ほんわかフェイス。

きっと、合コンでモテるタイプだろう。

優しくて、お姉ちゃんみたいに親身になって相談に乗ってくれて、苦手な数学も嫌な顔をせずに

分かるまで教えてくれた。



卒業まで1年。

ずっと一緒に学校に居られると思ってた。

それが、明日から産休に入ると言うのだ。

これほどまでに辛いことはない。

明日から、私はどうやって生きていけばいいのか(大袈裟)