天空に一番近い蒼~女子校体育教師と生徒の恋の場合


「綺麗…」

感嘆の溜め息を漏らす。



片手をフェンスに添えて、もう一方の手を空へ伸ばす。

もちろんその手は届くことはない。

今度は摺り足で縁まで進み背伸びする。



その瞬間、南東から風が大きく吹き付け、スカートが煽られた拍子にバランスを崩し掛ける。



(あ…危な…)



諦めて私はそこに座り込み、縁から外へと足を投げ出した。



風に吹かれて雲が流れる度、切り取られた青空が形を変える。

そして真っ直ぐ延びる光芒が角度を変えながら瞬いている。



幽かに遠くから女生徒たちのきらびやかな声が聞こえてくるばかりの、静かな時間。



(幸せだなぁ…)



私はただ風に吹かれていた。



出来ることならこのままずっと空に抱かれていたい。

この穏やかな時間のまま止まってしまったらいい。

そのためには…



そのためには…?



風がまた強く吹いた。

小さくキィと金属音が聞こえた。風でフェンスが軋んだのだろう。



強い風に煽られてまた雲がたなびき、細い光が尾を引いて私に降り注ぐ。



この風になら、乗れそうな気がする…



私はもう一度、静かに空へ手を差し伸ばす。



あとは天使が手を引いてくれさえすれば、この風に乗って雲の上へ行くことが出来るんだ。



もっと光を。



最期の言葉にそう言った名高い文豪がいたけれど、今私もそう天へと叫びたい気分だった。